天然香料の製造法
圧搾法
柑橘系の果実からの採油は、香気成分が果皮に含まれているために、果皮の油細胞を圧し潰してとる。これを「圧搾法(Expression)」という。
かつては人間の手で、ギザギザのっいた半円形の金属製の器具に果実をあてで果皮の汁を絞り、傾斜法でろ過採油していた「エキュエル法(Ecue11)」と、果実を手で押しっけて出てくる汁液を海綿に吸収させる「スポンジ法」が行われていたが、現在では、ほとんど機械化され、自動的に精油、果汁、クェン酸などを分離して製造している。このときに採油されたオイルを精油(Essential
oil)といい、例えばベルガモットの場合はベルガモット油(Bergamot 011)という。
なお、ライムに関しては水蒸気蒸留して得るDistilled Lime Oil が存在するが、これは例外である。
浸漬法
道物性香料の4種は、普通エチルアルコールに浸漬させて長時間振渥して熟成させ、チンクチャー(Tincture)にする。これを「浸漬法」または「浸出法」という。
アンパーグリスチンクチャーは90%エチルアルコールで3%にする。少なくとも6ヵ月間の熟成が必要である。
カストリウムチンクチャーは、ピュアなエチルアルコールで6%にする。熟成はろ過する前に6~8週間行う。
シペットチンクチャーは、ピュアなエチルアルコールで3.5%にする。少し加熱して、冷アルコールに不溶解な部分をなるべく少なくするようにする。10%溶液も製造されている。
ムスクチンクチャーは、90%エチルアルコールで3%にする。ろ過する前に少なくとも6ヵ月間熟成させる。
アニマルチンクチャーは高級香水などに用いられる。
なお、以上のアニマルなチンクチャーの他にポピュラーなものとして、
- パニラチンクチャー
- ペンゾインチンクチャー
- アンブレットシードチンクチャー
などが製造されている。
加熱してチンクチャーをつくる、いわゆる「アンフュージョン(lnfusion)法」は、熱によってエチルアルコールと様々なエステルなどをつくるため均一な製品をつくりにくく、重要度を失いつつある。
蒸留法
エジプトでは紀元前3世紀にローズ水、ネロリ水がっくられたといわれ、10世紀にはアラビアの医師アヴィセナ(Avicenna)により蒸留法が発見されて行われていた記録がある。また17世紀初頭にはランビキ法が行われていた。「蒸留法(Distillation)」は香料界では最も広く行われている採油法で、加熱した蒸気を蒸留器に吹き込むと芳香水蒸気ができる。これを冷却・凝縮させて芳香を
得る方法をF水蒸気蒸留法(Steam Distillation)」といい、熱処理に弱いジャスミン、チュペローズの花を除くすべての花、葉、心材、樹皮、根、種子、苔、草など大部分の香料植物のオイルはこの方法で抹油するが、パルマローザ(Palmarosa)油、ジンジャー油、ローズ油、イランイラン油、ネロリ油などの一部は「直火蒸留法(Water DistHlation)」しても得る。この他に「Water-and-
Steam Distillation」や「乾留法(Dry Distillation)」がある。
こうして得られたオイルを、精油(Essential Oil)と呼ぶ。例えばブルガリアのパラの場合は、ブルガリアのパラ油(Rose Oil Bulgarian)という。
収油率は、
- ラベンダー 0.6~0.7%
- ラパッジッ 2~3%
- セロリ 2%
- キャロット 2.3%
- パチュリ 3%
のように、ふつう大部分の植物の場合は0.5~2.5%の範囲に入るが、原料によってかなりの差がある。
次にその一例を示す。
- パジル 0.08~0.10%
- ローズ 0.025~0.033%
- アメリカ産ペパーミント 0.3~0.4%
- サッダルウッド 1~4%
- アニス 2~6%
- パイッニードル 7~12%
- クローブパッズ 16~18%
- ガルパナム 10~22%
- テレビッ油 20~30%
分子蒸留(M01ecular Distillation)は、抽出した香料の色が濃暗褐色の場合、これを除去または軽減するために行われる。得られた香料は例えばオークモスの場合は、アブソリュート・オークモス・インカラーという。
溶剤抽出法
香料産業での画期的な発明のひとつは、19世紀中葉の炭化水素系溶剤による「溶剤抽出法(Extraction)」である。それまでは花の香りの採取は吸収法に限られていたものが、自然に咲いている花の香りに近いものがとれるようになり、大変革をもたらした。すなわちパーフューマーのパレットに並ぶ香料の数が増加して、合成香料の間発製造と相まって、それまで想像さえできなかった
香りのタイプがつくられるようになった。
使用される溶剤としては、石油エーテル、ベンゾール、ブタンなどがあるが、今日では石油エーテルが一般的である。
製造法の概略は、タンクに花を入れて金属製の格子(grid)を置き、その上にまた花を入れていく方法で、これに溶剤を低温で注ぎ込んで香気成分を抽出する。抽出されたものは一般にワックスに似た固体で、これをコンクリート(Concrete)といい、香気成分と花に含まれるロウ成分が混在している。コンクリートにエチルアルコールを入れて約50℃とし、撹拝溶解させながら数週間置
くと、アルコールのパーツに香気成分が移行する。これを冷却(-15cC以下)ろ過して、エチルアルコールを除去したものが目的とした花の香気成分で、アブソリュート(Absolute)という。アブソリュートを花精油とも呼ぶ。例えば、ジャスミンの花の場合は、ジャスミンアブソリュート(JaSmin AbS01ute)という。
次に、主要な花からの収油率を列挙する。
| 花からコックリートへの収率 |
コックリートからアブッリュートヘの収率 |
|
| エニシダ | 0.09~0.10% |
35~40% |
| ジャスミン |
48~52% |
0.28~0.34% |
| ミモザ | 0.7~0.8% |
20~25% |
| ゼラニウム | 0.2~0.25% |
75~80% |
| ローズ | 0.24~0.26% |
50~65% |
| ラベンダー | 1.5~2.2% |
82~85% |
| ラパンジン | 0.4~2.5% |
85~90% |
| セージクラリー | 0.6~1.25% |
80% |
| シスト | 2~4% |
55~60% |
| パイオレットリーブス | 0.09~0.11% | 50~60% |
なお、炭化水素系の溶剤を使用して天然の樹脂状香料素材から抽出した香料を、レジノイド(Resinoid)と称する。レジノイドは、レジン(Resin)など炭化水素に溶解するものを含んでいるが、溶剤は含んでいない。レジノイドの典型的な例はオリパナムレジノイド(011banum Resinoid)である。
超臨界炭酸ガスによる香料の抽出法
従来、芳香植物から香気成分を採取する方法では、大小の差はあってもどうしても熱による香気の劣化や悪化が完全には防ぎきれなかった。そこに登場したのが炭酸ガスに圧力をかけて、気体とも液体ともつかぬ流体、即ち超臨界の状態にすれば、浸透したり拡散したりさせる気体の性質、また物を溶かし引き出してくる液体の性質をかね備えていることに着目した抽出法である。これに
り||えて炭酸ガス自体が安価なこと、不活性であること、無毒であること、燃えたり、爆発したりする危険が少ないなどの利点がある。しかし、装置は密閉式でなければならず高価にならざるをえない。そのため付加価値の高い、香料・薬品・色素などへの応用が一般的である。香料の場合はすべてによい結果とは限らず、例えば、今のところジンジャー、ペパーなどは従来の品物に比べて香り味ともに好成績である。
この方法は換言すれば、オレオレジン製造の最新版ともいえる抽出法である。香り、呈味成分を一緒に引き出してくれるからである。したがって、フレーパーへの用途が多い。
吸収法
歴史的に古くから行われていた方法は、「中性で無臭にした牛豚脂は、揮発する花の香りを吸着する性質がある」ことを応用した「吸収法」であろう。しかし、工業的に行われるようになったのは19世紀に入ってからである。
吸収法には2種あり、加熱(40℃~70℃)撹祥して行う方法を「温浸法」といい、もうひとつは熱をかけないで行う「冷浸法(Enfleurage)」という。前者は、溶解したポマードの中に花を投入し、人手でゆっくりと撹伴して花香をしみ込ませる方法である。ローズ、カッシイ、バイオレットなどに応用している。後者は、木製の枠にガラス板を置いたものを何枚も用意しておき、ジャスミンやパラあるいはオレンジフラワーの花はガラス板の上に塗ったポマード上に並べ、チュベローズの場合は下のガラス板に花を並べ、上に重ねるガラス板の下部にポマードを塗り付けておく方法である。アンフルラージュ法では全く熱がかからない。花香成分が十分揮散された頃(24~48時間後、チュベローズの場合は48~72時間後)を見計らって、新しい花と交換する。いずれの場合も、花香で飽和状態になったものをポマードと呼ぶ。このポマードからつくられるアブソリュートをアブソリュート・フロム・ポマード(Absolute from Pommade)という。なお、これに使われた花はまだ香気成分を含んでいるので、炭化水素系の溶剤で処理してコンクリート
(Concrete de Chassis)とし次いでアルコールでアブソリュート(Absolutefrom Chassis)にする。
近年は労働力の不足と高賃金のため、吸収法ははとんど行われておらず、わずかにロペルテ社でジャスミンやチュベローズの花がアンフルラージュ法で製造されているにすぎない。
テルベンレス油およびセスキテルベンレス油の製造法
植物性香料には、テルペンおよびセスキテルペンが比較的多く含有されている。テルペン類は低沸点領域に、セスキテルペン類は高沸点領域に存在する。両者を総称してテルペンと呼んでいるが、テルペン特有の匂いしかしないのが普通である。したがって、香気~重要でないこのテルペンを除去して、匂いの強さを出し、溶解性をよくするための操作が行われる。これを脱テルペンという。
通常、蒸留によってテルペンレス油が製造される。その際、何%除去したかによって、例えば、テルペンを50%カットしたパレンシアオレンジ油があるとすれば、このオイルをvalencia orange 011 50 %Terpenelessという。
これにより、原油より香気が強くシャープとなり、溶解性が向~し、運搬がしやすくなる。しかし一般に価格は高くなる。なお、溶剤を使用して脱テルペン油を製造している香料会社もある。