背を伸ばすだけではない

「成長ホルモンは背を伸ばすホルモンである」ことばかりが有名ですが、背を伸ばす以外にも重要な効用があるのです。

その効用をわかりやすくひとことでいうと、もし成長ホルモン不足の人が成長ホルモン治療をしなかったら、肥満、高血圧、動脈硬化などが進み、成人病の心配が出やすいということなのです。

体脂肪の上昇

成長ホルモンは脂質の代謝(老廃物を外に出し、新しいものを取り入れる働き)に関係しているホルモンなので、成長ホルモン不足があると体脂肪が増えて肥満傾向が出がちです。

成長ホルモンの分泌不全の治療は不足している分を補う療法ですから、その治療を始めると成長ホルモンの量は一般の人と同じになるために体脂肪が改善されます。

男の子ではかなり改善し、それがずっと維持されています。女の子は最初は減少を示すものの、10歳以降では上昇していますが、これは10歳ごろ
から盛んに出るようになるエストロゲン(女性ホルモン)の影響で、これは生理的な変化であると考えられています。

動脈硬化を防ぐ

動脈硬化の危険因子のひとつである、コレステロールの中の悪玉(LDL)は成長ホルモン不足の人は多くなる傾向があるのですが、成長ホルモン治療をすることで減少します。同時に動脈硬化などを防ぐ善玉と呼ばれるHDLは逆に増えますから、成長ホルモン治療は動脈硬化をも防ぐ効用があるということになるのです。

動脈硬化になりやすいかどうかを示すものに動脈硬化指数というものがあります。総コレステロールをHDLで割ったものです。

子どもに動脈硬化の心配なんて?

「動脈硬化からの心筋梗塞、心不全、脳梗塞、などは年寄りの話。子どもにいまからそんな心配はいらないのではないか」と思われるかもしれませんが、それは違います。

現在の3歳児健診結果ではコレステロール値の上昇がみられる子がかなりいて、その子どもたちの60%は6歳の段階でも引き続いてコレステロール値が高いという結果が出ています。子ども時代からすでに動脈硬化予備軍ということです。ですから専門家の間では、3歳までの生活習慣が大切である
という声すら出ています。

一方で、妊娠中に母体のコレステロール値が高いと、生まれてきた子も高いというデータがあることから、妊娠中からの生活習慣が大切だとさらにさかのばった説まで出ています。余談ですが、成長ホルモンが不足していない人でも体によい食事を日々とることが、生涯の健康には欠かせないことなのです。

原則として安全である

成長ホルモンというのは本来体の中にあるものなので、その不足分を補っているのですから、原則として大きい副作用はなく、安全な治療です。

出ることがある副作用

知られている副作用としては、

  1. 治療初期に起こることのある頭痛(しばらくすると治る。まれに頭蓋内圧完進症という病気になることもあるがやめると治る)、発疹
  2. 甲状腺ホルモンの低下(甲状腺ホルモンの補充を行う)
  3. 大腿骨骨頭すべり症・ペルテス病(急激な成長のために起こる病気、治療は可能)
  4. 脊椎骨曲症(脊椎が曲がってしまう。治療は可能)

③④は成長ホルモンの副作用というより、もともとその素地のあつた人が成長ホルモン治療で身長が伸びたために発症したと考えられます。

白血病のリスクはあまり問題ない

成長ホルモン治療で白血病になる可能性があるのではと心配されたことがありましたが、最近は問題はないだろうとされています。もともと白血病などになりやすいリスクの高い人以外は、現実には副作用として白血病になっている例は少ないからです。反対に、重度の成長ホルモン不足で成長ホル
モン治療をしていない人に白血病が出ていることから、成長ホルモンの不足があると白血病になりやすいのでは、とも考えられています。

治療の費用はかからない

成長ホルモンは高価な薬で、薬代だけで年間数百万円もかかります。それが何年にも及ぶので、ひとりにかかる費用は莫大です。

しかし、治療が認められた場合、一定の条件を満たせば、これがすべて公費でまかなわれます。一般的には70%は健康保険が負担し、約3~5万円は小児慢性特定疾患研究事業という制度で半分ずつ国と都道府県で分担します。そしてその残りは高額医療費という枠で健康保険組合が負担します。

ただし、平成12年現在は、成長ホルモン分泌不全性低身長症の場合、年問3cm以上の伸びがない場合や、男子で156.4cm、女子で145.4cmを超えた場合、この小児慢性特定疾患による公費の補助は打ち切られます。

治療法は毎日の注射

小さいときは親が、大きくなったら親または本人が毎日注射をします。病院に行かずに医師でない者が注射できるのは、インシュリンと同じように自己注射が認められているからです。成長ホルモンに飲み薬はありません。飲むと消化されてしまうので、効き目がないからです。

注射器の種類

大きく分けると2種類あります。

①バイアル型

ビンにはいったフリーズドライの粉末薬剤を溶かし、注射器に吸って使用します。注射薬は1か月分ずつ渡されるのでかなりの量になるのですが、このタイプだと保管(冷蔵庫での保管が必要)に場所をとらない利点はありますが、作る手間がかかることと、不潔になりやすいなどの欠点があります。

②ペン型

ベン型の注射器に薬剤を詰め替えるタイプ。ペン型はワンタッチで注射できるので打つのに楽です。

また、薬剤はカートリッジ人りなので清潔が保たれるうえ、容量設定が容易。交換すると数回使えるので手間も省けます。

その他、針なし注射器、使い切り注射器などもあります。