軟骨異栄養症は軟骨無形成症と軟骨低形成症の総称で古くから使われていましたが、現在は使われなくなりつつあります。軟骨無形成症は、Achondroplasia(アコンドロプラシア) といい。アはないの意味、コンドロは軟骨、プラシアは形成です。臨床的に程度の軽いものが、軟骨低形成症と呼ばれます。
軟骨の増殖が何らかの原因で障害されているために起こる病気で、2万人にひとりの割で発生するといわれています。日本人口は1億2千万人ですから、単純計算すると全国では6千人の患者さんがいることになります。
軟骨の増殖が障害されているために骨が伸びないこと、特に手足の骨が短いことがひとつの特徴ですが、その他にもいろいろな症状が出がちです。
首すわりが遅いなど発達が遅れる、水頭症がある、脊椎管狭窄があるためにまひが起こることがある、アデノイドがある、いびきをかきやすい、惨出性中耳炎になりやすいなどなどです。
あまりにも低身長が強調されているため、この病気は低身長の克服が主眼のように思われがちですが、まずはさまざまな症状についての専門医からの説明や対応が重要なのです。
最近、この病気は妊娠中の超音波検査で発見されることが多くなりました。手足が体にくらべて短いこと、頭が大きいことなどからです。
生まれてみればそのプロポーションから、すぐ「軟骨無形成症」であることがわかり、産婦人科医からまずは小児科医に紹介されます。
そこで確かな情報が親に伝えられるといいのですが、小児科の先生の中には「お母さん大丈夫よ、5歳になったら成長ホルモンの注射があるし、10歳になったら脚延長術があるから背は伸ばせます」と低身長に関する話だけをされる方がおられるようです。
なお、脚延長術というのは、ひざの上下に人工的な骨折を起こさせて装具を両側につけ、その間隔を少しずつ開けることで骨を伸ばし、結果として手足を仲ばすことのできる手術です。
成長ホルモン治療と違う点は確実に背が伸ばせる方法ではあるのですが、安易にしてよいものではありません。
この病気と長年にわたり取り組んできた整形外科医の立場からいいたいことは、親ごさんへのなぐさめを考慮しすぎて低身長に対する安易な見通しだけはいわないでほしい、もっとこの病気全体を見てほしいということです。
まず軟骨無形成症の子に限っては、首すわりが遅い、おすわりが遅いなど発達の遅れがある、水頭症がある、アデノイドがある、惨出性中耳炎になりやすいなどがあるのが普通で、あっても多くの場合特に治療しなくても問題なく経過することが多いということをご両親に知っておいてほしいのです。
しかし、多くの病院では、あまりこの病気を見慣れていないため、不必要な治療や検査をほどこし、親子に苦痛を与えたり、問題を起こしたりすることもあるようです。
この病気に限って、運動発達の遅れはほとんどが様子をみていてよいのに、首すわりが遅いということでハードな訓練をさせられる子どももいます。この病気がよくわかっている医師なら「大丈夫、大丈夫」といって様子をみます。2歳まで首がすわらなかったけれど、様子の観察だけでいまは立派に職
業についている方もいるのです。
しかし、「大丈夫、大丈夫」とだけいわれても心配なものです。どこかいい先生はいないものかと新幹線などに乗って遠方まで通いつめ、何だかはっきりしない薬をもらってずっと飲ませ続けたご両親も珍しくありません。「親としてできることなら何でもする。ワラをもっかみたい。1cmでも効くなら」と迦い続けられたのでしょうが、この薬は間違いなく、本当のワラにすぎなかったはずです。
水頭症も同じ。この病気での水頭症は大部分は治療しなくても問題は起きません。むしろ、この病気で一般的な水頭症と同じ手術を行うとたいへん危険なのです。
海外には収骨無形成症で水頭症のまま有名な医師になっている人もいます。
扁桃、アデノイド、惨出性中耳炎なども手術などせずにおさまっていく場合がはとんです。
ただし、これらの話は一般論であり、もちろん例外的に手術が必要な場合もあります。
整形外科医にとっていちばん気が重いのは脊椎管の狭窄です。ときに神経が圧迫されてまひが起こることがあるからです。この場合は、やむを得ず手術となりますが、だからといって前もって予防的な手術をすることはありません。現時点では脊椎管狭窄に関しては何とか問題を起こさないでほしいと
祈るように見守るしかないのです。
この問題から見れば、低身長など小さい問題なのです。
このようにこの病気は特殊なものなので、いちばん大切なことはこの病気をたくさんみている専門医にフォローしてもらうこと、そこで十分な説明を受けること、先生の話をよく聞くことです。
軟骨無形成症で成長ホルモン治療を受けずに何もしないと、最終身長は120~130cmです。
成長ホルモン治療がわが国では認められていますが、まだ最終身長に関するまとまったデータがないので、どの程度効果があるのかわかりません。また、効かない人は残念ながらほとんど伸びません。ですから成長ホルモン治療がたとえうまくいっても、上乗せできるのは5~10cm程度と考えられるので、最終身長は140cmということなのです。
お母さん方の多くは「5歳になったら成長ホルモン治療がある、10歳になったら脚延長術がある」とインプットされているので、迷いなく、脚延長術を選択したいとなることが少なくありません。
そんなときには、まず手術の合併症として機能障害が出ることもあることをよく説明するのですが、なぜかまるで聞いていないかのようなことが少なくありません。聞いていても、説明が終わると「お医者さんだからオーバーにいっているのでしょう」「10人のうち8人は大丈夫なのでしょう」となります。麻酔での事故がないとはいえないといっても、「飛行機が落ちるというくらいまれなことなのでしょう」となり、1時間もかけて本音で説明しても、説明が終わると「やってください」となる場合がほとんどです。
そこまで信頼されるのはありかたいとは思いながら、こんなとき会話の中で常に感じるのは「何がいちばん大切なのか、このお母さんはわかっていないのではないか」ということです。背を伸ばすことよりもっと大事なこと、それは子どもの中身を伸ばすこと、低身長のコンプレックスをはねのけられる子に育てることです。
そのためにはまず親が、低身長に対するコンプレックスをもたないことが大切です。
ここをいちばん強調したいのですが、私はこの病気の人以外で、背を伸ばしたいという人の手術はいっさい受けてはいないということです。理由は、背たけに異常な価値観をもつことは、間違いであると考えるからです。
軟骨無形成症の子どもにとって四肢短縮が大きなハンディになっていることは事実で、機能障害を残さない範囲で手術により四肢を延長できるようになったことも事実です。そこで、どうしても手術をしてほしいと希望する軟骨無形成症の子どもと親には実際の治療の現場を見てもらうことが最初の仕事なのです。
どんな器具をつけて、どのくらいたいへんな手術なのか、を見てもらいます。
手術を終わった子にも会わせます。親にはその親に会ってもらいます。手術を終わった子からは「やめといたら」という声はなく、「やったら」ばかり。「私でも手術ができたよ」と、どうしようかと迷っている子に胸を張って見せる子がほとんどです。
そのあとでも本人が「それでも伸びたい」と子供なりに判断したら手術となるのですが、こわいからやめたという子はまれで、ほとんどは手術を選んでいきます。
手術を救いとして生きてきたお母さんは「大きくなったら手術する」といい続けて子どもを育てますから、その子どもも「大きくなったら手術するねん」となるのですが、それがどれほど痛いものであるかなどわかるはずもありません。
手術希望の子どもに「本当に手術してほしいの」と聞くと、「だってお母ちゃんが喜ぶもの。手術すれば手術、手術といわれんですむもの」と本音が出る子もいます。
「大きくならなくてもいいよ。立派な人間になってくださいよ」と育てられたなら、この子たちの反応は違ったものになったのではないかといつも考えます。子どもを愛するということは、何かあっても全面的に受け入れることではないかとも思います。
社会に出てかわいそう、いじめられるのではないかと不安に思う親ごさんが多いようですが、私の印象ではこの病気の子では「ハミゴ」(仲間はずれ)になっている子は少なく、むしろクラスの人気者です。いじめられるのではないかと身構えることなく、積極的に人とかかわれるよう見守り勇気づけたいものです。
私の患者さんは小学校高学年から高校生くらいまでですが、いちばん手術しやすいのは小学校の高学年から中1くらいで、高校生ならできるけれど、大学生ではやりにくいというところです。
好適な時期に手術すると皮膚も筋肉などの組織も伸びるのです。特に軟骨無形成症の子は伸びます。
なお、あまり早くやると、手術で伸ばしても、もともと自分で伸びることができる分か減ってしまって、10~20cm手術で伸ばしたのに、最終身長が何もやらないのと同じ130cmで終わったという例もあります。
手術が終わってからでもずっと入院させる病院もあるのですが、私の場合、完全入院1Iか月ほどで、あとはできるだけ早く通学をさせます。そのとき、クラスの友達がかばんを持つ係、車椅子を押す係など分担を決めて通学の便宜をはかってくれているようです。
なぜこうまでして通学させるかには理由があります。たとえば2年入院させる場合は院内学級に通うので楽なようですが、ここは病気の子どもばかりの養護学級であるため、2年後には普通学級の勉強についていかれないばかりか、今まで友達とのつき合いがないので「学校には戻りたくない」となる場合が多いのです。その点、たいへんでも車椅子で普通学級に通えば、そのまま高校、大学と他の子と肩を並べて学び、仕事へと進めるので私は外の学校に通わせる方針をとっています。
医療関係の仕事につく人が意外に多いように思えます。銀行など金融機関につとめる人もいます。身障者手帳を持っている人が多く、その枠での就職の道はかなり開けてはいます。
結婚できている人は少ないのが実情です。結婚していても子どもをつくらない場合も少なくありません。
日本の場合は社会に自分が受け入れられなかったから、結婚はしない、子どもはつくらないと決断されるようですが、欧米は違います。社会の受け入れ体制があるため、この病気も自分で受け入れやすいのでしょう。欧米には結婚して子どもをもっている人たちが多数います。
手術した子どもたちの反応は「手術してよかった」というものがほとんどです。それが私の頑張る力にもなっています。
2年もの長いつき合いのなかで毎日のように語り合います。子どもはこの2年の間に痛さに耐え、車椅子の不便さと闘い、家を離れての生活を強いられることで、何かを得てくれるのかもしれません。私の話も多少は価値観の形成に役立つたかもしれません。
しかし、ときに「背が高くなることがよいことと思っていたけれど、やらなくてもよかった」という話をしてくれる子もいます。
「手術しても150cm、やっぱり低いですよね。やっぱり軟骨無形成症で脚延長術をやっただけなんですよね。別人になれたわけではないのですよね」と。こんなに立派なことをいえるようになる子もいるのです。
これは多分、親の姿勢にもよるものでしょう。親ごさんにいちばんやってほしいことは、低身長でもかまわないという価値観を子どもの中に育てることです。
軟骨無形成症の親の会は昔からかなりの活動をしています。親たちは集まって、これらの子をどう快適に育てるかを考え合いました。子どもたちは同じ病気の子の中ではハンデイがないのでよく遊びました。手紙を送り合ったり、キャンプをしたり、コンプレックスもなくいろいろできる会でした。
いまは違います。私もときどき呼ばれて話に行くのですが、私か本音で話している間はシーン。終わったとたんに「何歳で成長ホルモン治療ですか」「脚延長術はいくつでしてもらえるのですか」「どうしたらいちばん背が高くなりますか」と質問攻めです。
親同士の情報交換も、どこに行けば早く手術してもらえる、どこへ行けば成長ホルモンを1単位打ってくれる、などばかりです。
私はお母さんたちにいいたいのです。「成長ホルモンを打って、脚延長術をして、子どもの何か治りましたか」と。いちばん大事なことは子どもが低身長のコンプレックスなどはねのけて、長い人生を泳ぎきれることではないのでしょうか。