低身長がひとつの特徴である、先天的な病気です。性染色体の中のX染色体でのトラブルなので、女性にだけ起こります。
背が低い、首のまわりの皮府がたるんでいるためにひだができる(翼状頸)、ひじから先の腕が外向きになる(外反肘)、二次性徴が出ない(乳房が大きくならない、月経がこない)などの特徴があるのですが、この名前はこれを初めてきちんとまとめたアメリカのヘンリー・ターナーに由来します。1938年のことでしたが、それから約20年後、染色体の検査ができるようになり、以後、ターナー症候群は染色体検査できちんと診断できるようになり、そのために幅広く見つけられるようになりました。
しかし、この病気は染色体異常が原因なので、いまのところ病気そのものを治す方法はありません。
染色体には22対の常染色体と2対の性染色体とがあります。父親から22本の常染色体と1本の性染色体、母親から同じく22本の常染色体と1本の性染色体を受けついで全部で46対の染色体をもつことになります。
染色体というのは細胞のひとつひとつにあるのですが、これらは体の設計図を含んでいるものなのです。
性染色体によって男性か女性かが決定されるのですが、染色体は男性だと46XY、女性だと46XXということになります。
ターナー症候群の女性の典型的なものは45Xで、Xがひとつしかないものです。しかし、それだけでなく、X染色体は2本あるのに、先が欠けていたり、ときには小さなY染色体の一部をもっていたりなどさまざまです。
また、46XXと45Xとが混じり合っている場合もあります。いくつかの染色体、たとえば45Xと46XXのふたつの染色体をもつ場合はモザイクと呼ばれます。
発生頻度は千~2千人にひとりではないかと考えられています。先天的な病気の中ではかなり多いほうといえるでしょう。しかも、この染色体構造をもっていると圧倒的に流産するので、受精卵の段階での数はかなりであろうといわれています。
また、症状にもかなり幅があり、二次性徴があったり、外見からはほとんどわからないという人もいます。ターナー症候群であっても子どもができた人もいます。
二次性徴があったり、外見からわからない場合は、本人がわざわざ病院を訪れることはまずないので、知らないまま一生を過ごす場合もあるわけです。ですから、一生知らずに過ごしたほうがよいのではないかという考えも成り立ちます。事実、学問的にすべてのターナー女性を見つけようとしたら出
生した女児全員に染色体検査をしなければなりません。
しかし、すべての人にかなりの検査をしてまで全員を見つける必要など少しもありません。わが子の背が低くてもいいんですよ、と考える方もいて、それはそれで少しも問題ではありません。
早期発見、早期治療が必要なのは背が低いのをどうにかしてほしいという人に対してです。
ターナー症候群の女性は何も治療しないと最終身長(日本人の場合)が平均138cmなので、治療希望の人には早期発見、早期治療は欠かせません。
なお、ターナー症候群であることが確定すれば、そのすべての人に成長ホルモン治療が公費でできるようになりました。
ターナーに限らず、マイナス2SD以下の人には「もし原因があるなら治療が可能かもしれない」と伝えることは必要でしょう。ただし、それを強制するのは行き過ぎです。治療するかどうかを決めるのは、あくまでも本人や家族なのですから。
告知に対しては医師によって違いはあるでしょうが、私の場合はこのようにいっています。
まず両親には、お子さんが性染色体異常であることはすべてきちんと話します。どのような染色体構成であるか、この異常は受精後の分裂のときのちょっとした間違いで起こったこと、突然変異なのだから親の責任ではないこと。遺伝などではないので、次に妹ができても何でもないから心配いらないこと、背が低いこと、卵巣はなく、二次性徴の発達はなく、月経もこないこと、そして将来子どもは望めない可能性が大きいこと、腎臓の奇形や先天性心疾患があるかもしれないこと、成人になって甲状腺の病気や、糖尿病、心臓病の可能性のあることなどなど。低身長に関しては成長ホルモン治療ができるので、希望があればすること、しかし、治療しても平均最終身長は146cm~150cm程度で飛躍的に大きくはならないなどなど。この告知のときはお互いにつらいひとときです。
泣きだされる親ごさんもいらっしゃいます。
しかし、そのあと少しずつ受容されていき、明るくなっていきます。生死にかかわるようなそんなに大きい病気ではないことが、だんだん理解されていくようでもあります。
子どもへの説明は年齢によって違います。10歳以降だとわかるので、質問があったら「卵巣がうまく働けないので、乳房は自然には出てこないし、生理もこないけれど、治療で出すことはできるし、女性らしい体つきになることもできるよ。子どもはできないかもしれないけれど、結婚はできるよ」と。こんなとき子どもは表面的かもしれませんが、前向きにとらえるように見えます。少なくともそれほど深刻になってはいません。
私か子どもにあえて伝えないのは染色体の話です。それを話すと本人は「私は普通と違う」という印象をもつのではないかということと、この話をしてもメリットがないのではないかと思うからです。
お母さんからは「どの年齢で説明しましょうか」と相談を受けるのですが、子どもは本などで自分で調べていることが多いのか、親とはそのことについては話したくないのか、お母さんが話さなくてもすむことが多いようです。
ターナー症候群の女性でなくても一般的に10組に1組の不妊カップルがあるといわれます。最近はもっと不妊の率が上がっているという説もあります。ですから、不妊であることを前もって知らないほうがよいのかもしれないとする考えもあるようです。ときにはまれに40歳、50歳になっても小児科に相談にみえるターナー症候群の女性もいますが、一般的には大人になると小児科に来なくなることが多いので、その後の不妊に対してはつかめてはいません。しかし、ひとつはっきりしていることは、ターナー症候群の女性がことのほか子ども好きということです。それを考えるととても心痛むところではありますが、保育士さんを希望する人が多いというのはうれしいことです。優しい保育士さんになれるのではないでしょうか。普通より幼いことを受け入れてよく、ターナー症候群であると親が子ども扱いする、過保護にする、前向きでないところがあるなどといわれますが、それは二次性徴が自然に出ないため、いわば、かなりおく手なためのように思えます。
年齢に比して子どもっぽいのですから、その時点では過保護はともかく、子ども扱いしていいわけです。また、少なくとも小学校くらいまでは早熟の子が活発で、生徒会などでも活躍し、早生まれなどで、おく手っぽい子はやむを得ずおとなしいという傾向がありますが、これと同じで、ターナー症候群の女性は子どもっぽいからその時点ではおとなしくしていて、性格的に積極的でないように見えるのではないでしょうか。二次性徴の治療が遅くて、まだまだわが子が「子ども、子どもしている」場合は、まわりがこのあたりも理解して、その子のいまの状態にあわせて子育てをしてほしいものです。
その意味からは低身長治療は早期から始めて、普通の思春期の到来に合わせて二次性徴の治療にはいれることが望ましいといえます。そうなれば年齢相応に思春期も到来させられるからです。
二次性徴の治療は骨の成育を早めてしまうので、成長ホルモン治療である程度身長が伸びてから行います。そのため成長ホルモン治療のスタートが遅いと、二次性徴の治療も遅くなり、結果として年齢不相応に幼いという現象が出てしまいがちということです。大人になってわかるターナー症候群の場合あまり多いことではないのですが、大きくなってからターナー症候群が発見されることもあります。そのためには背の低い女の子が相談に来たときは、「女の子での低身長はターナー症候群の確率が高いから」と話して一応染色体の検査はしています。
そのときターナー症候群がわかる説明書を渡し、2~3週間後の検査結果を聞きに来るときまでに読んできてもらうのですが、それでほとんどはこの病気を理解してくれていると思います。